「元旦には高い山の上から神様が降りてくる」こんな話を聞いたことはありますか?
古来より自然を神様と崇拝する文化は世界中で見られますが、とりわけ日本は山が多いお国柄か特に山と神様は切っても切れない関係にあります。
祖先の霊が山の神様となり、そして正月には麓に降りてきて自分たちが幸せになれるよう見守ってくれるのです。
今回はそんな「元旦に高い山から降りてくる神様」についてご紹介したいと思います。
元旦に高い山から降りてくる神様とは?
さきほども少し触れましたが、山の神様となった祖先の霊がお正月に山から降りてきて幸せを運んでくれます。
この神様には様々な呼び方があり、多くは「年神様」、「正月様」「歳徳神」などと呼ばれております。
山の神様となった祖先の霊が元日には「年神様」となって、子孫の繁栄を見守ってくれるのです。
農業が盛んだった時代は何と言っても天気が命を左右します。
自分の祖先が神様となり、1年の始まりにそうした天候を含む天の恵みを与えてくれると考えるとすごくロマンチックですよね。
そうしてはるばる山から降りてくる神様を迎え入れ、たくさんの幸せを授かるために様々な風習や行事が生まれたのです。
年神様ってどんな神様?由来は?
年神様には様々な由来があります。
1つ目は、さきほど紹介したように祖先の霊が神様となったものですね。
子孫の繁栄を見守ってくれるありがたい由来です。
2つ目が、穀物の神様を祀るという由来から来ています。
古くから農耕を営んできた日本人にとっては一年の始まりに年神様を「穀神様」として祀ってきました。
年神様の「とし」とは穀物、とりわけ稲が語源となっているのです。
このことから年神様は豊作をもたらす神様として大切な存在だったのです。
3つ目が日本における神道由来の考え方です。
それがいわゆる八百万の神様。
世界の多くの宗教では唯一の神様を信仰することが多いのですが、日本は古来よりありとあらゆる万物に神様が宿っていると考えてきました。
そのため山を神様として信仰するという習慣もあり、山の神様が年神様となって正月にやってくる、という考えです。
一つ目と二つ目の由来は農耕を行う庶民の生活に合わせて根付いているものです。
このことから、この二つを合わせたものが由来としては有力です。
ただ八百万の神様という崇拝は農民のみならず、古来より日本という国の成り立ちとして信じられています。
その為、もしかするとすべての由来が重なり合って年神様という文化、風習が生まれたのかもしれませんね。
年神様はいつどこにやってくる?
子孫の繁栄を見守り、福や幸せをもたらせてくれる年神様。
そんな年神様は正月の朝、元旦に山からやってきます。
やってくる場所はもちろんそれぞれの家ですね。
年神様を迎え入れるために正月には様々な用意をします。
いわゆる正月行事は、年神様を迎え入れるためという成り立ちがあるのです。
ちなみに年神様は一般的には新年の初日の出とともに山から地上へ降り立つ、とされています。
そのため初日の出のことを「ご来光」などと呼ぶのです。
ほかにも大晦日の晩にやってくるとされる地域もあります。
一度自分の地域では、いつ年神様がやってくると言われているのか調べてみるのも面白いかもしれません。
年神様をお迎えする準備はどうすればいい?
そんなありがたい年神様をお迎えするためには、年末までに様々な準備をしなければなりません。
ここでは一つずつ紹介していきたいと思います。
すすはらい
すすはらいとは年神様を迎え入れるために家中のすすやほこりを払い落とし、綺麗に磨き上げることです。
いわゆる大掃除のいわれですね。
やはり神様のお迎えの前には綺麗にしておいてもらいたいものです。
ちなみに、すすはらい、大掃除は12月28日までに行うのが一般的です。
28日に間に合わなかったとしても31日、大晦日に大掃除はしてはいけません。
神様を迎え入れるための掃除を前日にドタバタと済ますというのは、失礼にあたりますのでご注意ください。
正月飾りを飾る
すすはらいをしてしっかり家を清められたなら、正月飾りを飾り付けて年神様を迎え入れる準備をします。
飾るものはしめ縄、門松、鏡餅の三つです。
しめ縄は玄関に飾ります。
玄関にしめ縄を飾ることによって家が清められるとされています。
門松は玄関先に飾ります。
木の幹や枝の先には神様が宿るとされています。
そんな門松を飾ることで年神様が迷うことなく各ご家庭に辿り着くための目印となります。
鏡餅に関しては古くから続く家では、たくさんの鏡餅をサイズ別に用意しています。
一番大きくて立派なものは玄関や床の間、それより一回り小さいものは仏壇や神棚、そして一番小さいものを各部屋に置く、というならわしがあります。
もし一つしか用意しないのであれば、リビングや玄関などみんなの目に入るところに飾るといいでしょう。
ちなみに鏡餅は、年神様へのお供えもので神の生命力が宿ると言われています。
おせち料理
お正月といえばおせち料理と連想される方も多いと思いますが、実はおせち料理も年神様をお迎えする準備の一つです。
お正月に年神様がせっかく福をもたらしてくれても、水仕事をしてしまうと福も一緒に水に流されてしまうと言われています。
そのため元日は炊事や洗濯は避けなければなりません。
おせち料理を作るのには実はそんな理由があるんですね。
年越しそばを食べる
年越しそばは年神様をお迎えするのに直接関わることではありませんが、細く長く生きられるように、と健康を願い、また一年のしめくくりに無事に過ごせたことを感謝して食べます。
こうして年内にやり残したことがないようにすることも、また年神様をお迎えするのに大切なことです。
初日の出を拝む
年神様は初日の出とともに地上に降り立つ、と言われていてます。
そのため初日の出のことを「ご来光」とも呼びますね。
見晴らしのよいところで日の出を拝み、年神様をお迎えしましょう。
お年玉を用意しておく
これらのほかにも正月と言えばの行事、お年玉も実は年神様に関係しています。
もともと年神様にお供えした餅のことを「御年神様の魂」と呼んでいました。
その「御年神様の魂、つまりおとしだま」をみんなで分け合って食べることで福を呼んでいたのです。
これがお年玉の由来という説もあります。
正月にはしっかりとお年玉を用意しておくのも、また年神様をお迎えするのに必要なことなのかもしれませんね。
年神様のまつり方は?
年神様が日の出とともに山からやってきて、7日にお帰りになられる松の内の間の祀り方についてご紹介したいと思います。
年神様を祀る場所に関しては多くの場合は神棚です。
一部地域では床の間にまつるという場合もあります。
祀り方としては、向かって右側に年神様の御札、左側に大国主大神、事代主大神の御札をお祀りします。
大国主大神、事代主大神の代わりに大黒様、恵比寿様をお祀りすることもあります。
神棚や床の間など地域によって祀る場所は違えど、この配置は変わりません。
また近年では神棚に飾るのではなく、棚板に垂らす祀り方が増えてきています。
ほかにも神棚の後ろの壁に貼るというやり方もありますが、いずれにせよ配置は変わらず、向かって右側が年神様になります。
年神様を祀る期間はいつからいつまで?
そんな年神様ですが、元旦にやってきて1月7日にお帰りになられます。
この日に合わせて正月の飾り物を片付けてしっかり年神様を送り出しましょう。
年神様がやってきてお帰りになられるまで、つまり家にいらっしゃる間のことを「松の内」と言います。
ちなみに全国的にほとんどの地域が1月7日までを松の内としておりますが、関西の一部地域では1月15日までを年神様のいらっしゃる期間、松の内とするところもあります。
他の地域より一週間も長くいらっしゃるなんて福がありそうですよね。
年神様にお供えするものは何?ダメなものもある?
最後にご紹介するのは年神様へのお供え物についてです。
「神人共食」という言葉を知っていますか?
これは神様と同じ箸で料理をいただくという意味がある言葉です。
正月には祝い箸を準備しますが、その祝い箸でおせちを食べるのはまさに神人共食の考えが基になっているのです。
つまりおせちは年神様へのお供えものとして作りますが、祝い箸で食べることで神様にも食べてもらいつつ自分たちも食べている、ということになるのです。
その他のお供えものとしては神饌、つまり米、水、塩、酒のお供えの基本です。
正月にはそれに加え、季節の食材や初物などをお供えします。
また榊も普段のお供えものとして半月に一度交換しますが、正月には新しい榊を購入し年神様にお供えしてください。
そしてお供えしてはいけないものについてですが、もともと神棚にはお供えしてはいけないものが決まっています。
誰かが食べ残したもの、四つ足動物の肉、誰かが使ったあとのお皿、以上の三つですね。
年神様にお供えする際もこれらのお供えものは避けたほうがよいでしょう。
まとめ
今回は「正月に高い山から降りてくる神様」についていろいろとまとめてみました。
正月は一年の始まり。
験を担いでその一年を素晴らしいものにしたいという思いは万人共通。
そのためにも古来よりの風習である年神様を迎え入れる準備はしっかりと行いましょう。
こうした日本の文化は現代になるといろいろと薄れていきます。
おせちも食べない、という家庭も多いですが、昔から継がれている年神様信仰が由来のお正月行事、文化は大切にしたいものです。
なんて言っても年神様は自分たちの祖先なのです。
そんな優しく見守ってくれる神様のことはしっかりとお迎えする準備をしたくありませんか?
来年のお正月に向けて、今年の12月は早い段階から準備をして万全の状態で年神様を迎えてみませんか?